恋の神様に受験合格祈願をしたら?
「菅野は菅野で、今までなんとか隠してきた本性をなんでチラ見せしてんの? 生徒会ってのは教師からの信頼が第一なのよ? その土台を揺るがしたら、後ろ盾がなくなるも同じなの。そしたら、護れるものも護れなくなることだってあるの。それ、わかってる? せめて、やるなら場所選んで。小学生のとき、痛いほど洗礼を受けたはずでしょう? 学習能力ないの? アンタがそのねじ曲がったドス黒い性格を全開にしたら、私たち以外全員敵になるんだからね!」
 蓋を開けただけの弁当を膝にのせたまま、仁美ちゃんが箸を握りしめた。
「男子って本当にバカ! 単純!! 考えなし!!!」
 仁美ちゃんはひとしきり怒鳴り終えると、盛大な溜め息をついた。
 そして、出来たばかりの後輩たちをつらそうに見やった。
「まずはアンタたち、ニコちゃん、リカコちゃん、ハルナちゃんに謝りなさい」
 内向的な仁美ちゃんにしては珍しく、あっという間に、生徒会に新加入した後輩3人に心を開いていた。
 しかも、呼び方が進化している。
 女子って、気が合うとここまで一気に距離を詰められるもんなんだな。
「いえ、悪いのは騒いでしまったアタシたちにもあるので……」
 見崎ちゃんが、やんわりと俺たちに助け船を出した。
 しかし、それが逆効果。
「ハルナちゃんたちは全然悪くないわ。だって、ぶっちゃけスポーツテストの待ち時間は全部お喋りタイムでしょう? なんで3人だけ責められるのよ。責めるなら、全員責めるのが筋でしょう?」
 ああ、仁美ちゃんがエスカレートしていく。
「私が怒ってるのは、言いがかりからの集団による個人攻撃ってとこなの。自分も女だけど、女って本当にイヤッ! ヤツらを集団にするとロクなことがないのよ。ヤツらは一生散らして! 野放しにしないで!」
 ああ、仁美ちゃんのトラウマにスイッチが入ってしまった。
 これは、当分ガミガミ言われるぞ。
「スミマセン」
 片手をあげたヒロが、肉と玉子のそぼろが敷き詰められた弁当箱を、ランチョンマット代わりの弁当包みに置いた。
「僕、そのころは体育館にいませんでした。別の教室で、握力測定と視力検査をしていたので、まったく関係がありません」
 ヒロがなんでもない顔で無罪を主張すると、
「2時間目ごろの話だろ? それを言ったら、俺らのクラスは外で懸垂とか幅跳びしてたよな?」
 ケイがマモルを見た。
「まあ、そうなんだけど。仁美さんが言いたいのは、そういうことじゃないと……」
 マモルが言葉を濁した。
「本当に悪いと思ってるんだ」
 胡坐座りのまま、リューイチが背筋を伸ばした。
 俺も背筋が伸びる。
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