恋の神様に受験合格祈願をしたら?
 体育館の一件から、俺はずっと反省していた。
 あの一件の後。リューイチと俺は、黙り込んだまま決められた集団に戻った。
 どうするべきか。
 それを、ポツポツと話し合いだしたのは、昼休み間近。
 昔、仁美ちゃんがイジメの被害を受けたとき、どう対応したか。
 あのとき、何が足りなかったか。
 次の測定を待ちながら、リューイチと静かに話した。
 俺もだけど、リューイチは当時のことをあまり思いだしたくないはずだ。
 俺とリューイチが仲良くなったころには、リューイチは仁美ちゃんに惚れていて、護ろうと頑張っていたからさ。
 それでも、完璧には護れなかった。
 中学に上がっても、誰かが仁美ちゃんを『メス豚』呼ばわりされたりするのが聞こえた。
 高校に入っても、陰で文句を言うヤツは絶えなかった。
 それは今も同じだ。
 『出る釘は大概打たれる』。
 でもそれは、出る釘の質や力量によって変わってくる。
 文句言うだけの相手は無視すればいい。
 心には結構な害になるけど、目に見える害は少ない。
 小者を相手にしない気持ちを持ち続け、文句を連ねる相手との間に、心の壁を築けばいい。
 問題は『出る釘は、見せた僅かな隙さえ必ず打たれる』ことだ。
 仁美ちゃんには隙があった。
 人見知りで内向的という隙だ。
 そして、それをカバーする能力がなかった。
 綺麗で頭がよくて、運動もまあまあ出来て、仲良しは全員男子で、その全員がそこそこ人気者で……。
 それだけのことで、仁美ちゃんは同性の集団に囲まれ、協調性がないだのと責められた。
 友達が俺たち男子なのが災いした。
 女子しか行けない場所や、女子だけで行う授業のとき、俺たちは仁美ちゃんのそばにいてやれなかった。
 護れなかった。
 何もできなかった。
 けど、今は違う。
 ニコちゃんたちは、3人とも同性で同じクラスだ。
 ニコちゃんは仁美ちゃんと同じタイプだから、理不尽に立ち向かえないだろう。
 けど、あとの2人は違う。
 絶対に突破口はある。
 それに、他人の悪意を気にして、ニコちゃんと距離を置くのは絶対に嫌だ。
 そんな負けを選ぶなら、俺は戦う。
 多少ニコちゃんを傷つけることになっても、ニコちゃんの傍にいたい。
 本当は傷つけたくない。
 けど、完璧に護ることなんてできないと、たくさん経験してきたから知っている。
 自分をどれだけ盾にしても、無理だってことも……。
 だから、もしニコちゃんが傷ついたら、同じ過ちを繰り返さないのは勿論だけど、それ以上の喜びを与えたいって思うんだ。
 だって俺、今こうしてニコちゃんといられるだけで、ゴメンねと思いながらも嬉しくて、護れなかったことを後悔しながらも、ニコちゃんの存在に癒られてるんだ。
 ニコちゃんはどうなんだろう。
 俺という存在は、ニコちゃんにとって特別になってるだろうか。
 恩人以上の存在になってるだろうか。
 少しは特別な好きになってるだろうか。
 なくてはならないものになってるだろうか。
 真実を知るのが怖くて本人には訊けないけど、ニコちゃんが俺を世界で一番好きになってくれればいいと思いながら、いつも心の中で尋ねてるんだよ。
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