恋の神様に受験合格祈願をしたら?
「日向ちゃんも大志くんも、早く食わないと時間なくなるぞ」
 ケイがアンパンの袋を開けた。
「心配は後だ。まずは飯だな」
 リューイチが、俺とニコちゃんを見て力の抜けた笑いをした。
 ニコちゃんが困った顔で俺をチラッと見た。
 ゴメン、ニコちゃん。
 ここで助けを求められたら、自分のことは棚にあげて「無理してでも食べなさい」って言うよ?
「ちょっとニコ、アンタいい加減お弁当広げなさい。食欲ないなら、半分手伝ってあげるから」
 谷地ちゃんが今気づいたとばかりに驚いた。
「日向ちゃんの弁当食べるんなら、その分谷地のチャーハン恵んでくれよ」
 いつの間にか谷地ちゃんと意気投合するようになったケイが、期待に声を弾ませた。
「誰がやるか!」
 谷地ちゃんがケイに舌をだした。
 それを見たニコちゃんが、小さく噴きだした。
 ニコちゃんは凄い。
 ニコちゃんが笑っただけで、どんよりとして張り詰めていた空気が解けていく。
「ニコちゃん、お弁当箱小さすぎない?」
 仁美ちゃんが、ニコちゃんの手元を覗き込んだ。
「仁美先輩も小さいですよ」
 ニコちゃんと仁美ちゃんの間に座る見崎ちゃんが、どっちもどっちという顔をする。
「どっちも小さすぎ。せめて、ハルくらいはないと」
 谷地ちゃんが、どうしようもないと肩を竦めた。
「基準としては悪くないね」
 含みを持たせた言い方をするヒロを、谷地ちゃんが睨んだ。
「そうか? 基準はやっぱタッパだろ。それだけじゃ、2時間で腹が鳴るって」
 ケイが言い切った。
 途端、爆笑が生まれた。
 加速して、賑やかになる昼休み。
 時計を見れば、残り20分もない。
「ニコちゃんの玉子焼き、もしかして砂糖? 醤油味と交換しない?」
 仁美ちゃんがオカズのトレードを提案した。
 ニコちゃんが頬を上気させてコクコクと頷く様を眺めながら、俺はやっとグチャグチャになったご飯を口に運んだ。
 美味い!
 たった一口のご飯で、食欲がわいてきた。
 現金な俺の腹が、ギュルギュルギュ~ッと鳴った。
 その音に、みんなが一斉に俺を見た。
 そして、声をあげて笑った。
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