恋の神様に受験合格祈願をしたら?
 降りかかる水に、個室の奥まで慌てて逃げる。
 上を見れば、突きでたホースから水が流れていた。
 水は勢いを増していく。
 キュッキュッと蛇口を捻っているらしい音が響く。
 勢いを増した水は徐々に奥まで届き、足にかかった。
 さらに勢いが増し、スカートに、上半身にとかかる。
「よけれれてもすぐかかるよう、ちゃんとホースの先動かしなよ」
「ちょっと待って。私、そんなに背ぇ高くないからうまく出来ないんだけど」
「ほら頑張れ~っ」
 笑い声と逃げてもかかる水。
 トイレの壁も便器の蓋も、トイレットペーパーも水でベタベタだ。
 私の髪はシャワーを浴び続けたように濡れ、靴下も上履きの中もベトベト。
 制服は水分を吸って重くなり、ジャケットの中のシャツが肌に貼りつく。
 首と制服の隙間から伝って入った水が、ささやかな胸の谷間や肩や背中に流れた。
 恐怖よりも、寒さで体が震える。
 私は自分自身を抱きしめながら、早く時間が過ぎるのを願った。
 わずかに感触が残る両手の指先が痛い。
 足先も冷え、感覚が傷みに変わる。
 恐怖と寒さで、すべての筋肉が強張ってうまく動かない。
 上の歯と下の歯を合わせると、カチカチと音を立ててしまう。
 その音を聞かせて喜ばれるのが嫌で、私は思いきり歯を食いしばった。
「少しはブスも綺麗になったんじゃない?」
「ブスは整形しなきゃブスのままだって」
「気づかなかった~」
「親切心で洗ってあげたのに、私たち損したね」
 先輩たちの声から少し鋭さが抜けたころ、ようやく水が止まった。
< 61 / 116 >

この作品をシェア

pagetop