クールなアイドルの熱烈アプローチ
「それより、俺の奥さんはいつ名前で呼んでくれるようになる?」

「へ……っ!?」

突然変わった話の内容に陽菜は変な声を上げ慌てる。
その間に優しく両手首を握られ顔から離されると真上からじっと勇人が端正な顔で陽菜を見つめていた。

婚約しても、入籍しても、陽菜は勇人のことを名前で呼ぶことなく、今までと変わらず“越名さん”と呼んでいた。

「だって、恥ずかしいですし……」

「陽菜ももう“越名”だけど」

「そう、なんですけど……」

うー……。と真っ赤なまま小さく唸る陽菜の頭を勇人が優しく撫でた。

「……別にすぐでなくてもいいが、いつか陽菜の口から名前で呼んでほしい」

焦らすつもりはない。とまで言われて陽菜は勇気を振り絞ってクルッと体の向きを変え、勇人に抱きついた。
驚いて目を丸くする勇人を見上げ、ギリギリ聞き取れるくらい小さな声で……。

「ゆ……勇人、さん……」

「っ……!!」

初めて名前を呼んだ。
ただそれだけで勇人は真っ赤になり、片手で顔を隠した。

「勇人さん……?」

「……待って。
ちょっと……ヤバい……」

勇人とくっついている体からは自分の物とはまた違うドキドキとした激しい鼓動が伝わってきた。
照れている。そして、喜んでくれているのが分かって陽菜は思ったことをそのまま口にした。

「勇人さん、可愛いです」

柔らかく微笑む陽菜を勇人は強く抱きしめる。
可愛いのはそっちだろう。と囁かれ、陽菜は頬を染めた。

マンションの窓からは月明かりが入り、仲睦まじく微笑み合う二人をいつまでも優しく照らしていた。
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