クールなアイドルの熱烈アプローチ
その場は拓也がすぐに勇人を連れていってしまって騒ぎにならずにはすんだ。

そしてその日の夜。
仕事から帰ってきた勇人に膝の間に収まるように座らされた陽菜は後ろから抱き込まれながら話をしていた。

「何の話してた?」

「えっと、二人に聞かれたんです。
プロポーズ前は何で名前で呼ばれなかったのかって……。
今は普通に呼んでくれるから、私も少し気になっちゃいました」

婚約してからスキンシップがほんの少し増えた勇人が毎晩しているこの抱きしめ方は、陽菜もどこか落ち着くので好きだった。

コテンと頭を勇人の肩につけて見上げる陽菜の唇に勇人が触れるだけのキスをすると、陽菜はみるみるうちに真っ赤になって両手で顔を隠した。
そんな陽菜を愛し気に見つめ、勇人は小さく囁いた。

「ずっと呼びたかったが……陽菜の名前は俺にとって特別な響きだから簡単には呼べなかったんだ」

予想外の言葉に陽菜は両手の下で思いきり目を泳がせた。

一つ問えばとびっきりの甘い答えが返ってくる。
結婚したと言っても馴れることの出来なさそうな勇人の言葉に陽菜が戸惑っていると、勇人は小さく肩を揺らして笑った。

「ずっと名前を呼んでた拓也と堀原さんに嫉妬してた。
あと、厄介な虫にも……」

「厄介な虫……?」

両手をそっと離して顔を出して首を傾げる陽菜に勇人は苦笑する。

陽菜への想いを自覚してもすぐに伝えられなかったのは陽菜の周りを大堂がうろついていたからで、大堂の悪い噂はよく耳にしていたから追い払ってからでないとゆっくり口説けないと内心やきもきしていたと、そう耳元で囁かれて陽菜は硬直した。

そして、そんな大堂ですら陽菜のことを馴れ馴れしく名前で呼んでいたのだから、勇人は心中穏やかでなかったとまで言われて陽菜は再び恥ずかしさのあまり両手で顔を隠すことになった。
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