たぶんこれを、初恋と呼ぶ



 触れあった後、どうやら眠ってしまっていたらしい。
目を覚ますと、梅ちゃんが服を着ているところだった。


「…帰るの?」

「うん。ムッちゃんと寝たいし。それにお父さん今日も飲み会あるみたいで、朝起きれるか分からないから、朝のムッちゃんの散歩行けないかもしれないし」


俺は、アッサムにも及ばないらしい。

そりゃあそうだ。アッサムは10年以上一緒に暮らしている家族で、俺は最近再び現れた最悪な別れ方をした元カレにすぎない。


いや、アッサムを優先するのは全然いいのだ。して当然だ。むしろ俺がアッサム大尉に嫉妬する事がおこがましい。

でも、何というか、……もう少し、梅の存在を感じていたかった。



「安尾くん」

「ん?」

不意に彼女に呼ばれて落としていた視線を上げると、一瞬で首に手をまわされ顔を引き寄せられ、ちゅっちゅっと何度も啄むようなキスをされた。


「ごめんね。今度は泊まってくね。いい?」



こんな事をされたら、頷かないわけにいかない。


ちくしょう、慣れてやがる。

再び付き合い始めてから、高校の時よりも更に彼女が男慣れしているのをつくづく感じた。


その度に俺は八嶋と、他の顔も知らない元カレ達に嫉妬を覚える。

でもそんなみっともない感情を知られたくなくて、俺は力一杯彼女を引き寄せて、でも余裕のないキスをした。




「ん…っ」


彼女が漏らす声に、いつも心臓が握りつぶされるような、歯がゆい痛みを感じる。


好きだ。


絶対にもう、離したくない。
離れたいって言われても、やっぱり他の奴がいいって言われても、離してやれない。



「梅ちゃん、好きだよ」

「うん、いっぱい聞いたよ」

「……正直、それじゃまだ足りてないくらいなんだよ、俺の気持ちは」



心の内を伝えると、目に少しだけ涙を浮かべて。




「安尾くん、愛してるよ」



そう言って梅ちゃんは、いつものように優しく笑った。







end

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