契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
さっそくソースをどぼどぼかけて、その巨大な一切れを箸でつかみ大きな口を開けてかぶりついた。
見た目以上にさくっとした衣の食感。その直後、旨味たっぷりの肉汁が口の中ではじけて、ソースの味と交じり合い、噛めば噛むほど、お肉そのものの味と、脂の甘さとか溶け合って……。
「ん~~。おいひぃ」
その様子を見ていた花ちゃんは、くすっと笑ってひと言。
「結奈先輩が、いつか食べ物じゃなくて男の人に対してそうやってときめいてる顔、見てみたいんですけどね」
うーん、そんな顔、花ちゃんに見せられる日なんか来るだろうか。
期待薄だと思いながら、もっしゃもっしゃとカツを咀嚼していたその時った。
「先輩、携帯鳴ってます」
花ちゃんに言われて見ると、テーブルの上に出していた私のスマホが震えて着信を知らせていた。
電話帳に登録されていない人からの着信らしく、画面には090から始まる電話番号だけが表示されている。
「誰だろ……花ちゃん、ちょっとごめんね」
仕事関係だったら、すぐに対応しておかないと。花ちゃんに断って席を立ち、店の外に出た。
外の空気は冷房の効いていた店内とは真逆のむわりと不快な暑さで、私は顔をしかめつつ、通話をタップしスマホを耳に当てた。