契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「はい、神代です」

『結奈か? ……俺だ。彰』

――彰さん。

心臓が大きくジャンプしたのは、彼が名乗るより先に、鼓膜をくすぐる色っぽい低音が、彼のものだと気づいていたからだ。

電話越しだと直接耳に息を吹き込まれてるみたいな……そんな甘い声なんだもん。

それに、連絡するとは言われていたけれど、一週間音沙汰がなかったので完全に油断していた。

「彰さん……あの、こんにちは」

何の用だろう。私は当たり障りのない挨拶をしながら、スマホの向こうの声に意識を集中させる。少しの沈黙のあと、電話越しの彼が静かに話し出した。

『昨日、さっそく母親に結奈の話をしたら、すぐにでも会いたいと言い出してな……。結奈さえよければ、今夜、両親と一緒に食事でもどうかと思ったんだが、都合はどうだ』

こ、今夜ですって? 特に予定はないけど、急すぎない?

「あの、都合は大丈夫なんですが、ご両親にお会いするのに適当な服とか、靴とか、そういうの、まだ準備できてなくて……」

彰さんのご両親ということは、道重堂の先代の社長とその夫人なわけでしょ? やっぱり会うときには、それなりの服装じゃないとだめだと思うわけよ。

今日の私の服装は、目の錯覚で痩せているように見える(と思いたい)ブルーのストライプ柄シャツワンピ。

清楚な感じは悪くないかもしれないけど安物だし、そんな大事な食事会に着ていくものではないよね……。


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