契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「わぁ……かわいらしいですねえ。これは、柿と紅葉と栗、ですか?」
テーブルの上には、黒い塗りのお皿に並ぶ、色とりどりの上生菓子。
本来の季節は夏真っ盛りだということを忘れてしまいそうな、秋の涼しげで静かな雰囲気、そして実りの喜びが感じられる。
「いかにも。秋はたくさんの作物が実り、美しい紅葉の季節でもあり、日本人が特に愛する季節ですので、毎年何をモチーフにしようか考えるのが特に楽しいんですよ」
テーブルに向かい合って座り、笑顔でこたえてくれるのは、この道重堂本店で〝親方〟と呼ばれている、和菓子職人の倉田尚人(くらたなおと)さん。
目が大きく鋭い顔つきの五十六歳で、職人気質の気難しいところのある人だけれど、私に対しては比較的気さくに話してくれる。その理由は……。
「今日は仕事だけど、ラッキーって思ってるんでしょう」
ふざけた調子で倉田さんに尋ねられ、私も笑って本音を隠さず告げた。
「はい。だって、プライベートでは発売前の新作なんてお目にかかれませんもん」
「はは。本当に筋金入りの和菓子マニアなんですね。私は雑誌とかテレビに取材されるのはあまり好きじゃないんですけど、神代さん相手なら楽しいです。和菓子に対する知識も豊富で、私ら職人のことも理解してくれて、何よりうちの商品への愛がある」