契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

慌てて答える私の傍らでは、花ちゃんが「結奈呼びとか……迎えに来たとか……」と、うわ言のようにつぶやいている。

そうだよね……この状況、現実とは思えないよね。

でも、とりあえず彼女に説明するのは後にして、帰り支度をしなければ。

「ちょ、ちょっと待っててくださいね。支度しますから」

彰さんに微笑みかけ、自分のデスクの方へ向かおうとしたその時。なぜか、食べかけのかりんとうを持つ手が彰さんの大きな手につかまれて。

彼の麗しいお顔がかりんとうに近づいたかと思うと、薄い唇がぱかっと開いて、そのまま食べかけのかりんとうを一本食べてしまった。

さくさくぼりぼり、彰さんの細い顎がかりんとうをかみ砕く。

それから喉仏が上下して、ゆっくり飲み込んだ。その一連の仕草は、上品であり色っぽくもあり……。

これを見て、かりんとうになりたい!と思う女子いるんだろうなぁなんて、彼を見つめながら変なことを思ってしまう。

「美味い。これ、どこのだ?」

彰さんに淡々と聞かれて、はっと我に返る。



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