契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「――倉田。こちらの女性は?」
突然テーブルのそばで、倉田さんとは別の男性の声がした。
私は全神経を口の中に集中させていたため、誰かの足音がこちらに向かって近づいていることなんて、全く気付かなかったらしい。
しかし、声が聞こえた途端、反射的にドキッとしてしまった。
だって、男性の声があまりに甘くて色っぽく、体の芯まで震えるような低音だったんだもの。
いったいどんな顔をしているのだろうと、私は目を開けて声のしたほうを向く。
「ああ、お疲れ様です社長。こちらは店のお得意さんで、今日は雑誌の取材に来てくれた神代さんです」
倉田さんがそう紹介してくれているのに、私は挨拶もせず目を見開いたまま固まってしまった。
な、な、なんという美しいイケメン……!
〝社長〟と呼ばれたその人は、上品な濃紺の着物に身を包んだ、長身で容姿端麗の若い男性だった。
長い前髪を左右で分け、片方だけ後ろに流してもう一方は目の端にかかるスタイルが、大人っぽくてセクシーで。かつくっきりと整った目鼻立ちが、圧倒的イケメンオーラを醸し出している。