契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「あの、それって……?」

彼の気持ちを、もっと詳しく知りたい。そう思って声をかけると、彰さんは言葉を選びながらゆっくり語りだす。

「前に、キスをしたことあるだろ? あの時は軽い気持ちだったから、〝褒美〟だなんて適当なこと言ってお前の唇を奪ったけど……」

そこで言葉を切った彼が、そっと体を離す。

「今、あの時よりお前にキスしたいと思ってる。……だけど同時に、無理やりに奪いたくはないとも思う。こんな矛盾した気持ちは初めてだ」

「彰さん……」

「……だから、今はしないことにする。自分の気持ちがハッキリするまでは」

凛とした声で、彰さんが潔く告げる。私との夫婦生活に、真摯に向き合うことを決めた。そう言ってくれているようでうれしかった。

その後、散歩を再開した私たちの間に特に会話はなかったけれど、漂う空気は穏やかで、気まずさはなかった。

そして胸の高鳴りもようやく落ち着いたころ、今度は腹の虫が空腹を訴えはじめる。

「ちょっと小腹がすきましたね」

「じゃあそろそろ行くか、腹ごしらえ」

そんな会話をしながら駐車場へ戻ろうとしたら、目の前で四歳くらいの小さな女の子が泣いているのに気がつく。

家族とはぐれたのだろうか。周囲をキョロキョロ見回しながら、ひっくひっくと小さな肩を震わせている。



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