秋に、君に恋をする。
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 電車の中でiPhoneの電源をオフにして、鞄の奥底に押し込めて、窓の外を眺めた。

だんだん灰色の世界から、緑の世界に色を変える。





 電車を降りて、前もって調べてきたバスに乗る。東京と違って、降車時に乗車賃を払うらしい。

バスに乗り、さっきまでちらほらと見えていたデパートやスーパーなどが見えなくなって、どんどん街から離れていった。


酔い止め飲んできてよかったなあと思いながら、だんだん揺れが激しくなっていくバスに1時間乗って、やっと目的地の最寄りのバス停に着いた。

土の道を、キャリーケースを引いて歩き出す。
ああ、キャリー傷つきそうだな、なんて呑気に考えた。



 9月になってもまだ暑い。

ワンピースから覗く腕に、太陽の光が突き刺さる。

でも、東京みたいにべたべたしたような暑さじゃなくカラッとした暑さで、気持ちよかった。


高層ビルに埋もれて窮屈そうにしていた空が、広々とどこまでも伸びていた。

とても青くて吸い込まれそうで、この空を見ていればどこにでも行けそうな気がした。




 1時間半新幹線に乗って、電車に乗り換えて1時間。
その駅から1時間バスに乗る。
田んぼに囲まれたバス停を降りて20分歩く。



 田んぼと畑と山しかない道を少し歩いて、ようやく目的の場所が見えてきて、すう、と大きく深呼吸をする。




「おばあちゃん!」

畑で見慣れた姿が見えたので、キャリーをごろごろ鳴らしながらそこまで走る。ここは母方の祖母の家だ。


「あらあ、あきは!早かったねぇ」


私に気付いた祖母は屈めていた腰を上げて、にこっと笑った。

朝の7時前に家を出たので、ちょうどお昼になる頃だ。



 9月の3連休に入るの前の木曜日。
私はここまで、一人でやって来た。


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