秋に、君に恋をする。
拝啓 長澤勇太朗様


 勇太朗へ


追試の結果はどうでしたか。

勇太朗から「赤点3つで済んだ!」というメールが来たときはなんとも言えない気持ちになりました。

家の事、勇太朗が気にしてくれているとおばあちゃんから聞きました。

長文になるので手紙に書きます。



あの日家に帰ったら、親には怒られるか呆れられるかのどちらかかと思っていたけれど、お母さんは私の顔を見ても、何も言いませんでした。

怒られる事も呆れられる事もなく、二人ともいつも通りに仕事に行っています。
やっぱり私には興味がないんだなあと思いました。

でも、久しぶりに会った弟が教えてくれました。
学校に行っていない事に気付いたのは、学校から連絡があったんじゃなくて、部屋に制服が置いたままだったから。

家に帰っていない事に気付いたのは、新聞が3日分溜まっていたから。ゴミがなかったから。
気付いて当たり前の事です。

当たり前の事なのかもしれないけれど、お母さんがそんな日常の変化に気づいた事、そんなささいな日常に目を向けた事は、私を動揺させるには充分でした。


昨日2週間振りにお父さんに会いました。

お母さんから、私が家にいない事、学校にも行っていない事、帰ってきた事も全て連絡を受けていたそうです。

お父さんに、「あんまり家にいられなくてごめんな」と謝られました。

それから、お母さんの事を、「お前がいなくなって、とても心配して、お前が帰ってきて、ものすごく安心していたよ。こんな事は初めてで、でも今までちゃんと向き合ってこなかったから、きっとどういう反応をすればいいのかわからないと思うんだ」と言っていました。

お父さんは基本無口だし、家庭の事になんて全く興味がないと思っていたので、こんなにしゃべる人なのだと初めて知りました。

お父さんが言った事が本当なのかわからないけれど、朝起きたら相変わらず誰も家にいないけれど、何故か朝ごはんは用意されているようになりました。

お米の炊き加減はゆるいし、おかずは目玉焼きしかないし、目玉焼きは焼きすぎていてとてもパサパサしてて、お母さんは料理が下手なのだと初めて知りました。

私がニラの薄焼きを作って、余った分は後で食べようと置いておいたら、いつの間にかお母さんに食べられていました。

田舎は嫌いなくせに、ニラの薄焼きは好きみたいです。初めて知りました。


ちなみに、一週間に一度くらいしか会わない9歳の弟は、何故か今まで私に敬語だったけど、最近ため口になりました。

「お姉ちゃん、この問題教えて」と言われて、驚きました。

弟は小3のくせにもう小6の勉強をしていたけど、小6の問題は私でもわかるのでほっとしました。


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