真宮ゆずはあなどれない。


あたしはぐいっと身を乗りだして、柾樹に近づいた。


顔が近くなる。

残り、数十センチ。


そこでぴたりと止まったあたしに、柾樹は表情ひとつ変えず「ほんと」とため息ともとれる呆れたような声を落とした。



「真宮ってさ、バカなの?」



頬を滑った柾樹の細くて綺麗な手が首の後ろにかかる。


え、と思う間に、視界が柾樹の前髪で黒く染まった。


唇に柔らかい感触が伝わり、思わず乗り出した腕の力が抜けて机の上にガクンと崩れ落ちそうになる。


そんなあたしを慌てて両腕で支えながら、柾樹は「はぁ〜〜〜……」と美佳ばりの長いため息をついた。



「ムードとか、そーいうのないわけ」

「へ……」

「というか、重い。はやくちゃんとして」

「す、すみません」


というか、あたしより小さいのにこんなにがっしり支えられるんだ……。


この細い体のどこにそんな力があるんだ、とその体を凝視しながら、右の指先で自分の唇に触れる。


今のは、夢……では、ないよね?

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