放課後の準備室、先生と。
ガヤガヤとした祭りの中をひたすら走る。先生は、見つからない。
何度電話をかけても、電波が悪いのか先生とは繋がらなくて、私は焦った。
もうすぐ、秋祭りが終わってしまう。その間に先生と会えなければ、この気持ちも伝えられない。約束を破るわけには、いかなかった。
闇雲に探してもだめだ。少し、考えるべきだろうか。
先生のことだから、きっと人目につくようなところで私を待ってはいないだろう。かといって、引き返してきた時に先生のことは見ていない。
なら__あっちの方だろうか。
勇気を出して脇道に入る。あんなにもたくさん人がいたというのに、ここは恐ろしいくらい静かで、思わず引き返してしまいたくなるけれど、我慢する。
しばらく歩くと、やがて開けた場所に出た。
「……先生」
呼びかけると、ぞっとするくらい綺麗な目が、私をまっすぐと射抜いた。普段の優しい先生でも、授業中の他人行儀な先生でもなくて、そこにいるのはこの夜を知っている男の人だった。
髪を上げて浴衣を着るだけで、人はこうも変わるものなのだろうか? 近づくことを躊躇うくらい、先生は綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「こういう日くらい、名前で呼んでくれてもいいのに」
奇しくも先程の佐藤と同じセリフを言われてしまい、背筋が冷えてしまいそうだった。どうしてだかいつも、全て見透かされているような気がする。
「佐藤のことはいいの? 放っておいて」
「よくは、ないでしょうけど……先生に死なれても困るので」
「あぁ……本気にしたの?」
「先生なら、やりかねない気はしました」
息を吸って、ゆっくり吐く。頭の中で何度も反復した言葉をもう一度思い出す。
大丈夫だ。きちんと言葉にするだけで、私と先生の関係が大きく変わるわけじゃない。
「……彼方さん。好きです」
いざ口にしたらやっぱり恥ずかしくて、直接顔を見ていうことができなかった。
たくさん酷いことをしてきた。先生にも、佐藤にも。それでも私は、先生が好きだ。
先生は少し笑って、おいで、と私を呼んだ。
「もうすぐ花火が上がるらしいよ」
下駄を鳴らして先生のそばにいくと、ただそれだけで安心できた。さっきあんなに佐藤に酷いことを言って、突き放すような真似をしたというのに。
「……彼方さんは、私のこと好きですか?」
「僕がレイをどう思っているかなんて、知っているくせに」
好きだよ、とは言わずに、指を絡ませてくる。それだけで十分だとでもいうように。
そして、私のことを強く抱きしめて。
「レイ、愛してる」
先生は確かに、そう言った。