放課後の準備室、先生と。
「レイ、愛してる」
走って、走って、ようやくレイを見つけた。ほとんど同時に、その言葉が佐藤の耳朶を打った。ライバルであった男が、一人勝ちするその瞬間を、まざまざと見せつけられる。
自分が一番、レイを好きだった。そのはずなのに。
「……いや、言い訳だな」
本当は全部、わかっていた。最初から__保健室前で出会ったあの日から、レイにとっては、佐藤は恋愛対象ではないことを。そして、そんな彼女がどういうカラクリか、突然転勤してきた彼方だけを、愛しそうな目で追いかけることを。
だが、信じたくはなかった。仮にも優等生であるレイが、わざわざ破滅の道を選ぶはずがない。教師と生徒の恋愛が、成就するはずなどないのだから。
「……嬉しい、です」
一言、文句くらい言ったって、きっと怒られやしないだろう。この場面を写真でも撮って、SNSに上げでもすれば、間違いなく二人の仲は終わる。だがそれができないのは、佐藤が臆病だからではなく、まだ「情」があるから。
「結局、何したって無駄なんだな」
サッカーでもっと結果を残せば、成績がもっと良くなれば、もっと__正直に全部伝えていれば。たらればばかりが脳を支配し、心臓がうるさかった。
後からどう足掻こうとも、一目惚れには叶うわけがないと、誰よりも佐藤自身がよく理解していた。
あの日、レイと目があってしまった瞬間から、この心はレイだけのものであったのだから。
深く息を吸って、長い時間をかけて吐き出す。
「……よし」
佐藤は、元来た道を歩き出す。何も見ず、何も聞かず、何も知らず。淡い恋心と共に、この記憶を閉じ込める。
それが、自分にできる精一杯のことであった。