恋愛イデアル。
酒石酸。
イデアルと長月遥は昔日のことを話し合う。四月だ。

「小学生の頃の朝顔の栽培は苦痛だったな」そう、イデアルがいった。
「たぶんそれは自然は難しい、ということでしょう。
最近になって、よくそう感じます」と長月遥。

「だとすると、科学とは浜辺で小石を拾うようなものなのだろうか」
とイデアルがいった。

「人生とは、ある時期までは発展するよりも内実を固めたほうがいいものですよ」と長月遥。

長月遥は話題をつづける。

「たとえば化学にしても、シェーレなどによる、酸素や塩素、酒石酸(しゅせきさん)など単純な化学物質と現象の発見がなければ現状は何も変わらなかったでしょう。
そして、それらの内実を勉強する人間がいなければ科学や伝統もやはり次の世代には途絶えるのですよ」と長月遥。
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