365日のラブストーリー
 世の中の美味しいと言われるものを食べ尽くしたいと願う食い意地が、顔や体型に滲み出てしまっているのだろうか。そう思ったとき、有紗は自然と腹部をへこませていた。

「あまり深く考えなくて結構です。単なる統計の話ですから」
 それがどういう意味なのかいまひとつ理解できずにいると、神長はあらたまった口調で言い直した。

「誘ったのは、どんな場所でもリラックスして食事を楽しめる相手だと思ったからです」

「……ありがとうございます。今まで誰かにそんな風に言ってもらったことないですけど、すごく嬉しいです。あ、わたし食べるのが大好きなので」

「俺も好きですよ」

(……なんかいま)
 前後の会話を考えれば『食べることが好きだ』という意味でしかないのだが、耳で聴いた言葉に素直に反応するように、心が騒ぎ出す。

 気持ちを落ち着かせようと、有紗は窓の外に目を向けた。
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