365日のラブストーリー

　今日は無理だろうか。考え事をしていると、突然千晃が振り向いた。

「おはよ」

　出会ったばかりの頃と同じような、鋭い目線。千晃はにこりともしなかった。当然だ、自分はもう他人なのだから。お互いの気持ちに整理をつけるために、わざとそうしているのかもしれない。

「……おはようございます」
　有紗はその視線から逃れるように、深く頭を下げた。

　千晃は足を止めている。このまま通り過ぎてしまおう。有紗は歩調を速めるが、横に並ぶと、それに合わせて千晃も歩き始めた。

「避けるとか……」
　ぼそりとため息交じりに吐き出して、千晃は改札をくぐり抜けた。有紗を待って、それから会社に向かって歩き出す。

「体調はどうなの」
「あ、もうたぶん大丈夫です」

「そっか。ならいいけど」

　なんとなく不服そうな相槌を打って、千晃は黙り込んだ。そういえばこの人は、意図はしていないだろうが、押さえつけるような雰囲気のある人だった。