365日のラブストーリー
「洋服は欲しいんだ?」
 きつく言い過ぎてしまったと思ったのか、千晃の声が優しくなった。

「何かいいものがあればなっていうかんじですけれど。あ、ぜんぜん心暖ちゃんの服メインで見てもらっていいですからね」

 有紗はこれ以上迷惑をかけまいとして、明るい声を出す。今日は三歳になる千晃の愛娘、心暖のためのコート探しに付き合って、新宿にあるデパートに買い物をしにきている。

目的地の子供服売り場は、棟をまたぐ連絡通路を越えたすぐそこだ。まずは自分の買い物よりもそちらが優先だ。

「有紗ちゃんにも一着、なにか買ってあげようか」
「いえいえ、大丈夫です。その分、心暖ちゃんにもう一着買ってあげてください」

「何だよ。こっちの懐具合の心配?」
 千晃が眉間にしわを寄せる。

「そういうわけではなくて。あの、自分のものは、ちゃんと自分で買いますから」
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