キミと見た最後の線香花火。
 あれから四年が経った。
 なのに、僕は過去を消化出来ていない。

 四年前の、まだ梅雨が開けない赤子の様にぐずる雨空を思い出す。

 ──目見て脳裏に焼き付いた君の姿。
 微笑む君を僕はまだ、忘れられない。

 ◇

「あのっ! もし、良かったら僕と今度、花火大会を見に行きませんか?」

 ファミリーレストランで、ウェイトレスの仕事をしていた君に、突然語り掛けた僕に驚き目を見張る君。

 幸いホールに居る客は少ない。端から見れば僕は冷や汗をかいているただの変質者。

 断られるのは百も承知の上だった。

 たった数秒の少しの間が怖くなり、僕は怖じ気づいて勢いよく席から立ち上がる。

「……はい」

 鈴がシャンと鳴るような澄んだ声で君は、たった一言だけ、そう肯定して僕の誘いを受けてくれた。

 あの時の高揚感は今でも、はっきりと覚えている。

 凄く嬉しかった。

 冴えない、友達も片手で収まる程しか居ない僕は恋愛にも臆病で、二十歳だったあの時も、当然恋愛経験なんて一つも無いままだった。

 それが、玉砕覚悟の思いで誘った逢い引きが叶った。

 夢を見ているのではないかと、自分の頬を強く力任せでつねる。

 ……とても、痛かった。夢じゃなかった。

 その日から夏が終わるまで、僕は傷一つ無い綺麗な硝子玉の中で淡く柔らかな夢を見続けた。

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