キミと見た最後の線香花火。
 君のアルバイトが終わり、一緒に帰り道を並んで歩く。

 夕日はもう半ば隠れていて、夜の帳《とばり》が降りようとしている。

「わたし、人混み苦手なの」

 そう言って下がった目尻が、とても愛らしくて僕の心をくすぐった。

「それなら! 花火を買ってきて川辺で、二人で楽しみませんか?」

 頬と耳を赤く染め、口早に言葉を紡ぐ。
 そこに下心などは微塵も無く。

 ただ、君の事を知りたくて。
 君の興味を引きたくて。

「……なら、線香花火。飽きるまで、線香花火がしたいな」

 微笑した君の顔に夕日の橙色が重なり、幻想的な雰囲気を漂わせる。

「……線香花火。いっぱい買ってきます、僕!!」

 その表情が妙に色っぽくて、体温が急激に上昇するのが分かる。

 心臓の鼓動が早まり、呼吸をするのが苦しい。

 それくらい、君の微笑みはとても破壊力が大きかった。

 触れれば消えてしまいそうな程、儚い笑顔に胸が、ぎゅっと見えない何かに掴まれた様に締めつけられる。

 隣に君がいる。

 君の左手が微かに触れてしまい僕は気恥ずかしくなり、さりげなく二十センチほど距離を開けて歩き続ける。

「じゃあ、わたし駅こっちなので、また」

 君は夕日に照らされながら、右手を少し上げて小さく手を振る。

「うん、また」

 僕も同じ様に手を振り返す。

 君が駅のホームに消えて見えなくなるまで、僕はその後ろ姿を見送った。

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