わたし、BL声優になりました
 憂いを帯びたような横顔が、バーの暗めの照明によって、さらに美しさを演出していた。

「白石くんの様子はどうかな」

「あの子なら平気よ。と、言いたいところだけど、やっぱり目に見えて元気はないわね。それについても、銀次はもう決めてあるのよね?」

「もちろん。人の恋路を邪魔したら馬に蹴られるって言うだろう」

「あら? 銀次はいつも私に蹴られてると思うけど」

「いや、あれは蹴られてるんじゃ──何でもないです」

 銀次は言い掛けて止めた。

 九十九院は今日もピンヒールを履いている。やはりあれは凶器の一種だと彼は思う。

 力任せに踏まれようものなら、本当に骨が折れてしまうに違いない。一応手加減はしているようだが。

 こちらの現状と言えば、黒瀬本人もそろそろ限界のようだ。

 せっかくのイケメンが台無しになるくらい、堕落した生活をしている。

 仕事をしていれば、少しはまともかもしれないが、現在の黒瀬はフリーの立場で、活動をしていることになっている。

 故に、オファーもオーディションも枯渇状態だった。

 彼が事務所の寮に住まい続けているのは、きっと、何時か彼女が戻って来るかもしれないという淡い期待を抱いているからだろう。

 それなら、身なりくらいは整えて欲しいものだ。

 無精髭に目元に影を落とした隈は、はっきり言って見ていられない。

「さあ、最後の仕上げといこうか」

 銀次はグラスを掲げ、九十九院もそれに応えるようにグラスを傾けた。
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