羊かぶり☆ベイベー
「羊って、とにかく警戒心が強くてさ」
「へぇ……」
「常に群れで行動するんだよ。1頭が逃げると、それにみんな、ついていく。放牧犬が追っ掛けると、纏まって逃げてるでしょ」
「確かに。そんなイメージはあります」
「まず、その警戒心の強さが、初めて会った時の、みさおさんを思い出さずには居られないよね。あの時の、みさおさんってば、ずっと俺のこと信用してくれねぇの」
「だって……本当に信用ならなかったので」
吾妻さんは、クツクツと笑う。
笑いながらも、話の続きを始めようと、あとね、と呟いた。
「警戒心とは紙一重で、一度この人は大丈夫って安心してもらえたら、しっかり懐いてもらえるのが、羊の性格だそうですよ? みさおさん?」
首を僅かに傾け、悪戯っ子の様に笑む。
私は思わず、彼から視線が外せなくなる。
心臓の音が耳元で騒いで、うるさい。
周りの音が聞こえなくなる程。
「や、止めてください。そんなこと言うの」
「あれ? 違った? 最近は結構、打ち解けてくれたと思ってたんだけど」
打ち解けた、つもりは無い。
しかし、もちろん、吾妻さんに対する印象は、かなり変わった。
軟派なイメージの男の人から、カウンセラーが天職なのかもしれないと思わせる程の、真摯な一面もあることを知った。
もう一度、繰り返す。
打ち解けたつもりは、無い。
だけど──。
「前よりは、ずっと……信用してますよ。吾妻さんのこと」
私がそう呟くと、吾妻さんは目を見開いた。