羊かぶり☆ベイベー



「羊って、とにかく警戒心が強くてさ」

「へぇ……」

「常に群れで行動するんだよ。1頭が逃げると、それにみんな、ついていく。放牧犬が追っ掛けると、纏まって逃げてるでしょ」

「確かに。そんなイメージはあります」

「まず、その警戒心の強さが、初めて会った時の、みさおさんを思い出さずには居られないよね。あの時の、みさおさんってば、ずっと俺のこと信用してくれねぇの」

「だって……本当に信用ならなかったので」



吾妻さんは、クツクツと笑う。

笑いながらも、話の続きを始めようと、あとね、と呟いた。



「警戒心とは紙一重で、一度この人は大丈夫って安心してもらえたら、しっかり懐いてもらえるのが、羊の性格だそうですよ? みさおさん?」



首を僅かに傾け、悪戯っ子の様に笑む。

私は思わず、彼から視線が外せなくなる。

心臓の音が耳元で騒いで、うるさい。

周りの音が聞こえなくなる程。



「や、止めてください。そんなこと言うの」

「あれ? 違った? 最近は結構、打ち解けてくれたと思ってたんだけど」



打ち解けた、つもりは無い。

しかし、もちろん、吾妻さんに対する印象は、かなり変わった。

軟派なイメージの男の人から、カウンセラーが天職なのかもしれないと思わせる程の、真摯な一面もあることを知った。

もう一度、繰り返す。

打ち解けたつもりは、無い。

だけど──。



「前よりは、ずっと……信用してますよ。吾妻さんのこと」



私がそう呟くと、吾妻さんは目を見開いた。



< 143 / 252 >

この作品をシェア

pagetop