羊かぶり☆ベイベー



未だ胸に残るモヤモヤの正体が、悪い気を起こしてしまう前に、ビールと一緒に流し込んだ。

せっかく用意してもらったおつまみ達は、非常に良い仕事をしてくれる。

味の付いた褐色のうずらの卵も、ビールとよく合い、何とも言えない気持ちを一時的に抑えてくれる。



「あら……終わっちゃいました。やっぱり1本じゃ、酔えないですね」



いつの間にか、中身は空になっていた。

がっついていた自分に今、気が付いて、思わず、照れ笑いをしてみた。

そんな私に、吾妻さんは呆れている。



「みさおさんは、本当に酒強いね」

「別に強くは無いです。好きなだけ」

「それを強いって言うんですけどねー」

「吾妻さんはお酒苦手って言ってましたけど、飲むとどうにかになっちゃうんですか? それとも、体調の問題ですか?」

「体調かな。匂いで、もう駄目。昔に勤めてた会社でのあだ名は『ナイアガラ』だったから」

「ふふふっ。じゃあ、駄目ですね。無理しちゃ」



ナイアガラの滝、よく考えなくても、イメージが湧く。

そのあだ名を吾妻さんに付けた人は、センスの優れた人だ。

どんどん笑いが込み上げてくる。

可笑しいな。

私、こんなに笑いやすい人間だったかな。

しかも、こんなにくだらないことで。

私が笑い上戸なんて噂、1度も聞こえてきたことは無いし、経験も1度も無い。

そもそも今は、全くと言って良い程の素面。

自分でも不思議なくらい、笑いのツボが浅くなっている。

吾妻さんは次から次へと、巧みな話術で様々な話題を出してきた。

何を言われても、今の私は笑えてしまうようだ。

今、間違いなく私は楽しんでいる。


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