羊かぶり☆ベイベー
「俺だって『悩んでるみさおさん』だけじゃなくて久しぶりに『面白いみさおさん』と話をしたいんですが」
「それって、許されるんですか?」
「え、許されるって、何が?」
「『カウンセラーの決まり』って、よく吾妻さん言うじゃないですか。だから、こういう関係にある以上は、あまり踏み込み過ぎるのは、良くないと思って……」
吾妻さんは、いくつかあるおつまみの内の1つ、チーズ鱈の袋を開ける手を止める。
そして、少し唸って、言った。
「それは……相談されてる身である以上は、一線を引いて、関わりを持たなきゃならない。お互いの為にね。情を持ったりしないように。その時、その時で最善の判断が出来るように」
改めて、はっきり言われると、ショックだ。
そう思うと、カウンセリングを申し込んだことを、少し後悔したくなる。
カウンセラーとクライアントとしてではなく、初めてあのお店で出会した2人のままで、2度目を会っていたら。
もしかしたら。
これは、もしかしたら、だけど。
もっと違う関係になれていたのかもしれない。
なんてことを思っているのか、とも思うが、そう考えているのも実際、事実なのだから恐ろしくなる。
だから、距離をとろうとされればされる程、少し悲しくなった。
落ち込んだ私に、吾妻さんは「でも」と続ける。
「俺は、みさおさんとなら良いと思ってしまうんだよね」
「え?」
「カウンセリング以外の時、みさおさんとは、せめて友人みたくしてたい」
「友人、ですか……」
「……散々、突っぱねて置いて、今更、調子の良いこと言うなって、感じだよね」
本当に、調子の良いことを言ってくれちゃって。
どうせ私の気持ちに、気付くくらい訳無いくせに。
どんなクライアントさんの、心情も汲み取って、誰にでも優しくするくせに。
ちょっと胸が、モヤモヤする。
でも。
「いいですよ」
「いいの? それは嬉しい」
吾妻さんは、満面の笑みで笑う。
友人。
やっぱり複雑な気持ちのままで、返事をしてみたけれど。
それでも、良いと思えた。
少しでも、近くなれるのなら。