羊かぶり☆ベイベー
いつもなら、誰からも嫌われたくなくて、怖じ気付いて、自分から動けずに居る。
だけど今は、そのお陰様で、勝手が分からないからこそ、手段が選べないから助かる。
迷うの為の材料が、何も無い。
心に浮かんだままを言う。
それに、もう嫌われたって構わないのだから。
そもそも、そんなこと最初から重視していなかった。
カウンセリングを受けようと思った、そのきっかけも「素直になりたい」だった筈なのだから。
今、思ったことを、ちゃんと発言したとして、疎ましく思われるのならば、この先、一緒に居られる訳も無い。
私たちは、そこまでの関係なんだろう。
「……良くない、よ」
私がどれだけ2人のことで悩んでいたかを、彼はきっと知らない。
私と彼とでは、釣り合わないと悩んでいたこと。
いろんな彼の行動を度々、目の当たりにして、距離感が掴めなかったこと。
どちらも、私の感じ方の問題なのかもしれない。
でも、私だけが悪いとは、思いたくなかった。
気持ちは出来上がって居ても、不慣れな自己主張をしようとする声が強張る。
「私は、良くない、の」
すると、ユウくんは苦い顔をした。
「──あまり人目のつく場所で、この話はしたくないんだけど。特に、あいつが居るところでは」
「あいつ……?」
突然の乱暴な言い方に眉を寄せて、私が返すと、ユウくんはカウンターに座る吾妻さんを一瞥する。
「だって、何を言ったかは知らないけど、みさおちゃん、俺とのこと話してるんだよね?」
驚いた。
今日が初対面のくせに、吾妻さんを「あいつ」呼ばわりだなんて。
まさかユウくんが、そんな風に言う人だとは思わなかった。
それだけじゃない。
──何? 人前では話せない話って。
話をはぐらかそうとする彼に、今まで持ったことの無い類の不信感を抱く。
それを実感してしまうと、自分でも、やけにしっかりとした声が出たと思った。
「そうだとしても、吾妻さんは関係無いでしょ」
視線がかち合ったとき、何かを打つけられたような衝撃を感じた。
また、つい逃げ出したくなる程の。
心臓が、どくりと鳴り、少し痛い。
だけど、それでも退く気も一切無い。
いつも羊の皮を被って、波を立てないように、笑って居た私。
それなのに、今ならきっと、逃げずに向き合える気がする。
正直のところ、動悸が止まらないくらい、怖いけれど。