羊かぶり☆ベイベー
伝えたい。
感動することが減ったここ最近で、せっかく興奮出来たのに、ずっと堪えていたこと。
本当の「彼氏」とは出来なかった会話。
「ぶ、分厚いのに、お肉がとっても柔らかくて」
「そうそう!」
「あ、あと、ソースも。濃いですね……!」
「これでもかってくらいの濃口でしょ」
「本当ですね。でも、後味は全然嫌じゃないです。残らないというか」
「それね。なんか壮秘伝の味らしくて、とにかく最高に旨いのよ」
「秘伝……凄いですね。とても美味しかったです」
「良かった。俺も食べてほしいって、言い続けてたから、念願叶って嬉しい」
ちゃんと感心を持ってくれているが故の相槌や、笑顔が嬉しい。
思わず、気持ちが逸って、早口になる。
私は一体、何をこれ程までに浮き足だって居るんだろう。
「彼氏」の前なのに、不誠実だ。
ユウくんを見ると、今度はスマホを弄っている。
もしかして、吾妻さんが席を立つまで、一切、口を利かないつもりで居るのだろうか。
私の人生の選択肢において、最も重要性の高い男性2人が、隣り合わせで私の前に並んでいる。
それは決して、恋愛だけの意味ではなく。
それでも並ぶ2人を、いざ目の前にすると、比べてしまうではないか。
この状況でそう思うのは、きっと私だけじゃない筈。
自分の独占したいものが決定的で、それ以外は視界にも映さないタイプと。
自分の押し出したい欲を披露しながら、周りも巻き込みたいという、ある種の気遣いをするタイプ。
私なら当然、後者。
周りが見えていて、ちゃんと知ろうとしてくれる方が良い。
いつまで経っても、吾妻さんを視界に入れようとしないユウくんに声を掛けた。
「……ユウくんも、美味しかったよね?」