羊かぶり☆ベイベー
「みさおさんって、俺を勘違いしてる。営業って、図々しく口も上手くて、積極的なら誰でも出来ると思ってるんでしょ」
「私はしたことないから分かりませんけど、大体はそんなものなんじゃないんですか?」
「それは違うなぁ」
「どう違うんですか」
私がやきもきすれば、吾妻さんは不敵な笑みを浮かべた。
「今度までに考えといて。宿題」
「はぁっ?」
そのまま立ち上がり、上着を羽織りながら、吾妻さんはそう言う。
そんな姿が、逃げようとしているようにも見える。
それより、今度までの「宿題」ってことは、次があるってこと?
この人は、また私がこんな風に1人で、愚痴を吐きに来ると確信している。
だから、そんなことを言うんだ。
「ちょっと、吾妻さん。帰るんですか?」
「明日は朝一から、遠方のお得意さんと打ち合わせがあるから。悪いけど、今日は早めに失礼させて?」
吾妻さんは顔を少し傾けて、言う。
私に向かって、申し訳なさそうにする彼を見て、別に引き留めようなど思うはずもなかった。