羊かぶり☆ベイベー



そういえば、初めて会ったときに職業をはぐらかされた。

しかし、今ならはっきり分かる。



「吾妻さんのご職業って、営業ですね?」

「何、唐突に」

「その押しの強さや、図々しさは営業で培われたものなんですね」



私が自信満々なのに、吾妻さんの反応は何故かしら微妙だ。

そして、吾妻さんは口を開いた。



「いや? それは、性分かな」

「え、だって、この前は職業柄が、どうのこうのって……」

「みさおさんって、騙されやすいタイプ? 気をつけた方がいいよ」



──この人は……

込み上げてくるものを、グッと抑える。

すると、意外にも店長が話題に入ってきた。



「桐也は学生のときから、こんな感じですよ」

「図々しかったんですか?」

「そうそう」

「おい!」



吾妻さんが話を途切れさせようと、大きな声で邪魔をしてくる。

しかし、それにも構わず、店長の口は止まらない。



「口が達者なのも、昔からだよな」

「壮、お前さっきから悪意があるぞ」

「そんなつもりは無い」

「絶対、あるだろ!」



言い合う2人を見ていると、不思議と口角が上がった。

たった今のこの空間は、平和な世界が広がっている。

よほど興奮しているのか、吾妻さんの頬が少し赤くなっている。

店長は、至って冷静な様子で、吾妻さんを小突く。

そんな2人をもう少し見ていると、言い合いは終息した。

吾妻さんは、目の前のジンジャーエールを飲み、溜め息を吐く。

そして、グラスを見つめながら「みさおさん」と私の名前を呟いた。
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