羊かぶり☆ベイベー
「彼氏さん。本当に浮気だったのかなぁ」
「そ、その話は、とっくに終わってます」
穏便に済んだことを、また掘り返されるのは、嫌だ。
そもそも現場を目撃したのは、私だけだ。
何の根拠も無いくせに。
そんなことを、この人に問い質される筋合いは無い。
ふつふつと、苛立ちが増してくる。
「ただの妥協は絶対、駄目だよ。ちゃんと確かめた?」
「そ、れは……」
正直なところ、怖くて出来なかった。
その感覚は、まさにたった今、やろうとしていたことを、人から急かされたときと同じ。
今まで、穏やかに保っていた感情を、ゆっくりと踏みにじられるような。
それに気付きもしない吾妻さんからの言葉で、私の感情が捻れ始める。
──駄目。堪えて、私。
この人は、おそらく私を心配して、言ってくれているのだから、堪えてってば。
そう自分に言い聞かせる。
とうとう何も言わなくなった私に、吾妻さんも黙ってしまって、気まずい空気が流れた。
「桐也、そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
「ああ。ご馳走様」
店長がやんわりと促すと、吾妻さんは、すんなりと出ていった。