羊かぶり☆ベイベー



「すみません。あいつが余計な口を挟んで」



放心状態になっていた私に、店長が気遣ってくれる。



「悔しい……」

「差し障ったのなら、代わりに謝っておきます。すみませんでした」

「いえ、違うんです。それに代わりにとか、止めてください。店長も、吾妻さんも何も悪くないのに」



悔しい。

吾妻さんが言い残して行ったこと、全部正論だ。

確かに、妥協だった。

ユウくんとは、タイプが全く違うから。

はじめから、合わないと思っていたから。

飲み会で告白されたのも、罰ゲームか何かの遊びだったんじゃないかって。

あのとき、飲み会の席で突然、隣に座られて。

他愛もない世間話をしていて、偶然、沈黙が訪れたとき。

そのときに告白をされた。

小声で、だけど真っ直ぐな視線を向けられて。

不覚にも、ときめいてしまった。

あんなに舞い上がってしまったのは、何年ぶりだっただろう。

もしかしたら、学生以来だったのかもしれない。

あ、駄目だ。

走馬灯の様に、あのときの情景が浮かぶ。

しかも、泣けてきた。

店長の前なのに。

静かに涙だけが、つたう。
< 54 / 252 >

この作品をシェア

pagetop