もう一度〜あなたしか見えない〜
「昨日、なんであなたが謝ったの?」


「・・・。」


「私は苦しんでなんかいない。一時の快楽に溺れて、あなたを裏切ってしまいました。私が全て悪いんです、ごめんなさい、許して下さい。もう一度だけ、チャンスを下さい。やり直させて下さい。お願いします。」


気がついたら、私は夫に向かって土下座をしていた。ううん、こんなこと、ちっとも恥ずかしくない。この人に許してもらう為だったら、なんでもする。私はそれだけのことをしてしまったんだから・・・。


床に頭をこすりつけるように、うずくまる私を、夫がそっと手を添え、起こしてくれる。


「あなた・・・。」


「昨日も言ったはずだ、そんなことはしないでくれ。僕は君に謝罪して欲しいなんて思ってない。」


「でも・・・。」


「僕は君を幸せに出来なかった。忙しさにかまけ、君との触れ合いをおざなりにし、そのくせ、君だって疲れているのに、毎日夕飯の準備をさせ、遅くまで待たせて、それを当然のように思っていた。申し訳なかった。」


「そんなこと・・・言わないで。そんなこと・・・。」


不満に思ったことなんてないよ、って言いかけて、私はその言葉を呑み込む。だって、ならなんで浮気なんかしたんだって言われたら、返す言葉もないから・・・。
< 12 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop