もう一度〜あなたしか見えない〜
「明日、家を出るつもりだ。」


「えっ?」


その夫の言葉に、愕然と息を呑む。


「一緒にいれば、今日のように君に要らぬ気を遣わせてしまう。もう君を自由にしてあげたい。」


「待って!あの人とはキッパリお別れしました。もう2度と連絡も取らない。彼は会社に辞表を出しました、もう私の前に現れることはないの。」


「なんだって?」


その私の言葉に、これまで私を責める素振りも見せず、冷静そのものだった夫の顔色が変わった。


「どういうことなんだ、それは?」


「だから、私とのことの責任を取るために・・・。」


「ふざけるな!」


突然、大声を出した夫を、私は驚いて見つめる。


「携帯を貸してくれ。」


「あなた・・・。」


「彼と話がしたい。スマンが掛けてくれないか。」


「出来ません。」


「なぜ?」


「消去しました。もう連絡を取る必要のない人ですから。嘘じゃありません、なんでしたら確認して下さい。」


そう言って、私は自分の携帯を差し出す。でも夫はそれを手に取ろうとはしなかった。


「今日辞表を出したんなら、まだ出社するよな?」


「残務整理と引き継ぎがあるはずですから・・・。」


「明日彼に伝えてくれないか。彼と話がしたい、僕の携帯番号を教えてくれて構わない。必ず明日、僕に連絡をくれと。」


「・・・わかりました。」


いよいよ修羅場が始まるんだ・・・私は覚悟を決めるしかなかった。
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