もう一度〜あなたしか見えない〜
翌朝、私が話し掛けてきたことに驚いた彼は、しかし用件を聞くと、納得したように頷いた。


「ご主人の仰ることは当然だと思います。わかりました、今日の勤務が終わったら、必ずご連絡しますとお伝えください。」


そう私に告げると、彼は離れて行った。昨日、夫は私に謝罪を求める気がないと言った。だとしたら、彼が一身に夫の責めを受けることになるのだろうか。それはあまりにも心苦しいが、彼を庇える状況でもない。私は複雑な心境のまま、夫に報告のメ-ルを打った。


その日も瞬く間に過ぎて行った。会社にいる間は業務に集中してるつもりだが、振り返ってみると、今日1日何をしていたか、ほとんど思い出すことが出来ない。やはり当たり前だけど、普通の精神状況ではないようだ。


本当は一刻も早く帰宅したかったのだが、昨日無理して定時で上がったツケが回って、なかなか切り上げることが出来ない。焦りを感じながら、仕事をしていると、彼が顔を出した。


「すみません、先輩。ちょっといいですか?」


彼と私のことは社内でも誰も気付いていなかったはず。だから彼の退社と私の関連を疑う人はいないし、こうやって呼び出されても、業務の話だと思われるだけだろう。


今更、呼び出されるのは迷惑と思わなくはなかったけど、夫と話した結果、何かを伝えたいのだろうと思い、私は席を立った。
< 14 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop