もう一度〜あなたしか見えない〜
「ご主人の要望をお伝えします。ご主人は奥さんとの離婚を望んでいらっしゃいます。それに付きまして、ご主人から奥さんへの条件は・・・一切ありません。」


「えっ?」


私は思わず、耳を疑った。


「条件はない?」


「はい。奥さんからの謝罪も必要とされてませんし、慰謝料の請求も考えてらっしゃらないそうです。」


「・・・。」


「財産分与も折半でよいと。強いて条件と言うなら、一刻も早く離婚を成立させてもらいたい。奥さんに離婚届に印鑑を押してもらいたい、それだけです。」


言葉を失っている私を弁護士はしばらく見ていたが、やがてまた、口を開いた。


「正直申し上げて、ご主人がなぜ、本件を私に依頼されたか、わからないくらいです。奥さんにとっては、願ったり叶ったりの条件じゃないでしょうか?」


夫の気の変わらぬうちに、早く印鑑を押した方がいい。そう言わんばかりの弁護士の態度に、私はようやく我に返った。


「待って下さい。」


「はい。」


「私は・・・離婚を望んではいません。」


「はい?」


「私は夫と別れる気はありません。」


キッパリと言い切った私の顔を、弁護士は唖然とした表情で見つめていた。
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