もう一度〜あなたしか見えない〜
「興信所の報告を拝見した時、私が感じたのは、ああこの奥さんは、自分のしてることに何のためらいも罪悪感も感じてないんだなということでした。」


弁護士の言葉が胸に突き刺さる。そんなことはない、そう言いたいところだったが、今思い返してみても、バレたらまずいという思いはあったけど、彼と一緒の時には、彼しか見えず、彼との時間を楽しむことしか考えていなかった。


「行動も驚くくらいパタ-ン化していて、これは調べるのが簡単だったろうと思いました。よほどバレない自信があったのか、ご主人を舐めていたのか、その両方だったんでしょうね。」


「・・・。」


「ご主人はショックだったと思いますよ。誰にも打ち明けられず、どうしようもなくなって、私の所に来られたんだと思います。でもあなたと離婚するという決断は結局下せなかった。理由はもちろん、それでもあなたを愛していたからです。」


私はもはや顔も上げられない。ただ弁護士の話を聞いているしかない。


「以来、ご主人はあなたが目を覚ましてくれるのを待った。それなりのサインも出したに違いないと思います、でもあなたは何も感じなかった。あなたにとって全てが日常だったから。仕事も不倫も、ご主人がひそかに苦しんでる姿も全て。」


「・・・。」


「そしてご主人はついに諦めた。あなたを取り戻せなかった自らの無力に打ちひしがれ、あなたとあなたとの結婚生活に絶望して、あなた達の前に立ったんですよ。」
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