もう一度〜あなたしか見えない〜
それからまた、1週間が過ぎた。今日、私と夫は一緒にいる、私達の家で。


夫はせっせと荷造りをし、車に運んでいる。


「お茶が入ったよ、少し休憩したら。」


私が声を掛けると、夫は笑顔で振り返った。


「そうだな、じゃそうするか。」


一見、何事もないような夫婦の会話。でも私達が「夫婦の会話」を交わせるのは、今日が最後。夫が荷物を全て運び終わった後、私達が夫婦でなくなる為の儀式が待っている。


多忙な仕事の合間を縫って、新しい生活の為の住まいを見つけた夫は、正式に転居することになり、その引っ越しの日、私達はケジメを付けることになった。


最後のセレモニ-の場所に、弁護士は事務所を提供すると提案してきたが、私は自分達が5年間の結婚生活を過ごした場所で、2人だけで最後の時を迎えたいと希望し、夫も同意してくれた。


私の作った昼食を、夫は喜んで食べてくれた。食べてる間も、ごく普通に会話をして、本当にこれで食事を共にするのも最後とは思えないくらいだった。


夫の荷物は、自家用車のトランクや後部座席に十分収まるくらいしかなく、多少事前に持ち出してるとは言え、男性の荷物ってこんなものなんだと思ってしまった。


家電類は処分することにした。実家に戻る私には不要だし、夫が1人で使うには、冷蔵庫も洗濯機も容量が大きかった。それに正直、私と暮らした痕跡が、新たな生活の場にまで、付いて来るのは、夫としてはやりきれない思いだったのだろう。


借家だから、あまり時間は掛けられないが、私の転居はこれから徐々に行い、最終的に引っ越し業者を依頼することになるだろう。


こうして夕方になる前には、夫の作業は全て終わり、私達はリビングで向かい合った。
< 28 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop