もう一度〜あなたしか見えない〜
多忙だけど、無機質な1日が終わり、私は誰も待っていない自分の部屋に戻って来た。


会社的には何も痛痒を感じずに済んだ私だけど、離婚の経緯を知る人々からの視線は冷たかった。


代表的なのは、私の両親で、出戻って来た私を受け入れてはくれたものの、それまでほとんど何の報告もせず、いきなり不貞行為で夫に捨てられて、戻って来た娘は、親世代の感覚から見れば、まさしく世間様に顔向けできないような存在であり、厄介者以外の何者でもなかった。


結局、私は3ヶ月もしないうちに実家を離れた。親の援助がなければ生きていけないような立場でもなく、もともと長居をするつもりもなかったのだが、以来、親とは完全に疎遠になった。


大学時代のサークル仲間とは、卒業してからも交流があったが、あの件以降は、ほとんどが私から離れて行った。


私は食卓の椅子に腰かけると、フッとため息を1つついてから、テレビのリモコンを操作した。別に見たい番組があるわけじゃない、ただ静かな部屋に耐えられないから。


テレビが音を発し始めたのを確認すると、帰り道に購入したコンビニ弁当と缶ビールをビニール袋から出す。


あれ程、好きだった料理をほとんどしなくなって、どのくらい経つだろう。どんなに疲れて帰って来ても、夫の為に夕飯を用意をしていたあの頃がウソのようだ。


夫を裏切ってしまった後も、私は家事を疎かにはしなかったつもりだ。どんなに疲れていても、私の作った夕食を口にして


「美味しい、いつもありがとう。」


と言う夫の言葉と笑顔で、いつも癒されていた・・・はずだった。
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