もう一度〜あなたしか見えない〜
あまりに想定もしてなかった事態に、私は動揺したまま、家路についた。


何があったかわからないが、元夫はすっかり人変わりしてしまい、今や一匹の復讐鬼と化してしまったようだ。何故、今更という思いは拭えないが、今はそれを考えても仕方のないことだろう。


あの男の言葉は本気だろうか?たぶん本気だ。5年以上前の不貞行為を暴露されたところで、それで会社から何か処分されるとは思えないが、倫理的道義的に私が社内で苦境に立つことは、想像に難くない。


対応に苦慮したが、こんな時に相談を出来る人物も見当たらず、悶々と眠れぬ夜を過ごした。が、明け方、やっと1人の人物を思い出した私は、藁をもすがる思いで、朝一で連絡を取った。


うまくコンタクトを取れた私は、体調不良を理由に有休を取ると、急いで、その人のもとに向かった。


5年ぶりに訪ねたその場所は、特に変わりはなかったが、出迎えてくれた受付嬢は、別の人物になっていた。


見覚えのある部屋に通され、待つこと10分弱。


「ご無沙汰しました。」


と言って入って来た女性は、5年前と同じ雰囲気であった。


「こちらこそ。今日は突然にすみません。」


かつて離婚の時、夫の弁護士として、私の前に立ちはだかったこの女性は、今回は私の相談に熱心に耳を傾けてくれた。


そして私が話し終わると、憤りを隠せないという表情を見せて、話し出した。


「お話になりませんね。あの案件は、裁判に訴えても慰謝料は300万取れたかどうかです。
1000万なんて、ハッタリもいいところです。まして、あなたのおっしゃる通り、既に時効になっています。ビタ一文、支払う義務はありません。」


「はい。」
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