もう一度〜あなたしか見えない〜
「それにご主人・・・失礼、元ご主人の言動は既に恐喝罪に値します。本当に会社に暴露したら、名誉毀損も十分成立します。あなたは、こんなバカげた脅しに屈する必要は全くありません。キッパリとはねつけるべきです。」


弁護士は力強く、そう言い切った。


「ご依頼いただけるのなら、私がお二人の話し合いの場に立ち会います。グゥの音も出ないくらい、叩きのめしてやりますよ。」


弁護士のハッスルぶりに、私は少々戸惑うと慌てて言った。


「いえ、そこまでは・・・。とりあえずもう1回2人で話してみます。お話は大変参考になりました。ありがとうございました。」


「そうですか・・・ですが、何かありましたら、いつでもご連絡下さい。お力になりますよ。あと、話し合われるなら、その時の会話は録音されることを強くおすすめします。」


「わかりました。ありがとうございます。」


私は丁重にお礼を言うと、部屋を辞し、受付で所定の相談料を支払い、事務所を後にした。


私は気づいていた。5年前、彼女の左薬指にはまっていたリングが、今日は消えていたことに。


5年前は夫の代理人、今日は私の相談を受けた。立場の違いはあれど、あの時は明らかに夫に同情的だった彼女の、この好戦的な態度は、彼女の境遇の変化も影響しているのだろうかと、下衆の勘ぐりをしてしまった。


こうして、家に戻った私は、覚悟を決めて、元夫からの連絡を待った。
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