もう一度〜あなたしか見えない〜
なんとか元夫の心を動かせないかと、私は話し掛けるけど、石のように押し黙ったままの元夫。やはり裏切り者の元妻の言葉など、何も響かないのだろう。これ以上、話しても無駄かもしれない。


「おかあさん、お元気?」


最後に気になっていたことを聞こうとすると、元夫がハッと私の方を見た。


「一緒に住んでるの?」


「・・・ああ。」


ようやく、一言返してくれた。


「ならよかった。おかあさんを心配させない為にも、頑張って就職しないと・・・えっ?」


気が付くと、私の身体は、ソファ-に押し倒されていた。見上げると、あまりに間近にある元夫の顔。


「何をするの!」


驚いて言う私の胸元に、元夫の手が掛かる。


「ダメ、バカな真似はやめて!」


私は必死に抵抗するけど、その両手は男の手によって、簡単に頭の上にまとめられ、そして言葉で抵抗しようとする私の意図を封じるように、唇を重ねられてしまう。


私はこの男によって女になり、以来、数え切れないくらい、肌を重ね合わせて来た。5年のブランクはあるけど、私の身体を知り尽くしている男の手によって、私の抵抗は、徐々に弱められてしまって行く。


そして、全てのコトが終わった時、男の身体が力尽きたかのように、私の身体に覆いかぶさって来た。私は唇を嚙み締め、その重みと屈辱に耐える。


「スマン・・・僕は、最低な男だ。」


元夫のかすれたような声が聞こえて来たかと思うと、男の唇が降って来るから、私は顔を背けて、それを拒否する。


それを見た男は、慌てたように私の身体から離れる。


軽率だった、あまりにも。男を部屋に招き入れてしまえば、当然こういうことが起こりうることは、わかっていたはずなのに。でも私は元夫を信じてた、信じたかった・・・。


部屋から出て行く男が残したドアの音を、私は別世界からのもののように、遠くに聞いていた。
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