もう一度〜あなたしか見えない〜
翌々日。


私は、仕事を終えて帰宅すると、準備をして、あの人の到着を待った。元夫とは言え、ここで1人暮らしを始めて、男性を家に迎えるのは初めて。ちょっと緊張している私は、やっぱり変だろうか。


そして、9時ピッタリにインターホンが鳴る。モニターを確認すると、そこには硬い表情の元夫。私は扉を開いた。


「どうぞ。」


緊張の面持ちのまま、中に入って来た元夫は玄関に立つ。


「上がったら。」


その私の言葉に、元夫は驚いたように私を見た。


「いや、そういうわけには・・・。」


「貰うもの貰えれば、あとは用はないか。」


「そうじゃない。いくらかつては、一緒に暮らしてた仲でも、こんな時間に女性の部屋に上がりこむわけにはいかない。」


真面目な顔をして、そんなことを言う元夫に、やっぱりこの人も緊張してるんだと、思ってしまう。


「気を遣ってくれて、ありがとう。でも、ちょっとだけ。話したいこともあるし。約束のお金はちゃんと準備出来てるから安心して。さぁ、どうぞ。」


そう私に促された元夫は、しぶしぶといった様子で、靴を脱ぐ。そして、私に先導されて、部屋に入った元夫は、食卓の上を見ると、驚いたように足を止めた。


「よかったら、食べて行かない?ここんところ、料理とすっかりご無沙汰になっちゃってて、おいしいかどうかわからないけど・・・。」


お世辞にも豪勢とは言えないけど、久しぶりに元夫の為に並べた料理。それを少し眺めていた元夫は


「いや、遠慮しておく。」


とボソリと言うと視線を逸らした。やっぱりちょっとやり過ぎで引かれたか・・・私は少し反省する。


「じゃ、これ。」


こんな押しつけがましいことをしても、迷惑がられるだけだと悟った私は、元夫が求めているものを差し出した。


それを受け取った元夫が、微かに会釈をしたように見えたのは、気のせいだろうか。


「残りのお金は、もう少し待って。分割で振り込みにしてもらえるとありがたいかな。」


「・・・。」


「こんなお金で、本当にあなたに償えるとは思ってない。でも私に出来ることにも、申し訳ないけど、限界がある。」


「・・・。」


「差し出がましいようだけど、私がお金を渡せる間に、ちゃんとした仕事を探してほしいな。あなたなら、きっと仕事見つかるはずだよ。あなたは優秀な技術者なんだから。」


「・・・。」
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