もう一度〜あなたしか見えない〜
そんな私達にもたらされた思わぬ朗報。今、私のお腹の中には、新たな命が宿っている。私達は喜びを新たにした。そして、私は1つの決断をした。大学卒業以来、勤めて来た会社を退職することにしたのだ。


産休、育休を経て復職して、程なくの妊娠。さすがにこれ以上の迷惑は掛けられないからと、退職理由を述べると、会社はそんなことは気にしなくていい。もし今の業務が、キツいのであれば、希望の部署への配置転換も考えるからと引き止めてくれる。


若い頃、今の私と同じような環境に置かれた先輩達が、選択の余地もないまま、退職して行く姿を何度見ただろう。それに比べたら、私はなんて幸せなんだろう。いや、社会がやっと真っ当な対応をしてくれるようになったというべきか。


私の決断を聞いて、会社以上に驚き、引き止めてくれたのが夫で


「これまでのキャリアを無にしてしまうなんて、あまりにもったいないよ。」


とこれまた、自らの体験に基づくアドバイスをくれただけでなく


「もし将来、自分の為にお母さんが大切なキャリアを手放したと知ったら、生まれてくる子供が、きっと悲しむよ。」


とまで言ってくれたが


「ありがとう。でも私はビジネスの世界は、とりあえずやりきったと思う。これからは母親として、キチンと2人の子供と向き合って行きたいの。ワガママを言って、申し訳ないけど、許して欲しい。」


という私の言葉に、最後は納得してくれた。でもね、辞めるって決めた理由は、実はもう1つある。
< 66 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop