自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
セシリアは、生まれて初めての身の危険を感じていた。

全速力で駆ける男に担がれ、恐怖に悲鳴をあげるだけで、どうすることもできない。

男が倉庫の間の、狭い路地から走り出ると……。


セシリアは、後ろから追ってきた黒い影が、赤レンガの壁を蹴って高く飛び上がるのを見た。

クルリと一回転して着地し、男の行く手を塞いだ影がクロードであると気づいた直後、何が起きたのかと、彼女は目を丸くした。

自分の体が一瞬にして、クロードの腕の中に移り、悪党は呻く余裕もなく、地に伏しているのだ。

全てはクロードがやったことだと推測はできるけれど、速すぎて、なにをどうして救出されたのか、彼女には理解できなかった。


整地された港の地面に下されたセシリアは、ホッとして、「クロードさん、ありがとうございます」とお礼を言う。

それから、腰に彼の腕が回されていることを気にして、距離を取ろうとした。

照れのような恥ずかしさを覚えたためだ。

けれども逆に、その腕の力が強まり、密着するほど抱き寄せられてしまう。


「クロードさん!?」

「セシリア様、失礼をお許しください。この命に代えても、守り抜きますので、どうかご安心を」

「え……?」
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