初めまして、大好きな人



「ここ、いい?」


心地のいい低音が響いた。


びっくりして目を丸くする。


ここいいかって、この席に座る気なの?なんで?


訳が分からずに混乱していると、
高校生は向かい側に座った。


おい、まだ許可してないでしょう。
なんで座るの。ちょっと怖いんだけど……。


「波留。元気してた?」


「は、はい?」


「俺のこと、覚えてない?」


覚えてるか覚えてないかって言われたら、全く覚えていない。


でも、名前を知っていてこうやって聞いてくるってことは、
私が記憶を失くした五ヶ月の間に出会った人っていうことだ。


私が首を横に振ると、高校生は苦笑いして見せた。


まあ、そうだよね。
どういう関係だったかは分からないけれど、
知っている人に忘れられたら、そりゃあ気分も悪くなるよね。


でもこの人は嫌な顔をせず、また笑った。


笑った時に見える八重歯がかわいい。


「本当に覚えてない?まるっきり?」


「は、はい。あの、私……」


言っていいのか迷う。
理解できるかな。記憶が保たれないなんて。


俯いて手をぎゅっと強く握りしめる。


唇を噛みしめて、膝を見つめていると、
高校生が顔を覗き込んだ。


「何?」


「記憶障害なんです。前向性健忘っていう」



< 21 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop