初めまして、大好きな人
「ここ、いい?」
心地のいい低音が響いた。
びっくりして目を丸くする。
ここいいかって、この席に座る気なの?なんで?
訳が分からずに混乱していると、
高校生は向かい側に座った。
おい、まだ許可してないでしょう。
なんで座るの。ちょっと怖いんだけど……。
「波留。元気してた?」
「は、はい?」
「俺のこと、覚えてない?」
覚えてるか覚えてないかって言われたら、全く覚えていない。
でも、名前を知っていてこうやって聞いてくるってことは、
私が記憶を失くした五ヶ月の間に出会った人っていうことだ。
私が首を横に振ると、高校生は苦笑いして見せた。
まあ、そうだよね。
どういう関係だったかは分からないけれど、
知っている人に忘れられたら、そりゃあ気分も悪くなるよね。
でもこの人は嫌な顔をせず、また笑った。
笑った時に見える八重歯がかわいい。
「本当に覚えてない?まるっきり?」
「は、はい。あの、私……」
言っていいのか迷う。
理解できるかな。記憶が保たれないなんて。
俯いて手をぎゅっと強く握りしめる。
唇を噛みしめて、膝を見つめていると、
高校生が顔を覗き込んだ。
「何?」
「記憶障害なんです。前向性健忘っていう」