初めまして、大好きな人
それもそうだ。
確かに似合わない。
変なことを言ったなと思って俯く。
尚央は私の手を引いて歩き出した。
触れている手が冷たい。
ゴツゴツしたその手は私の手をぎゅっと握っている。
手が離れてしまわないように、私もその手を握り返した。
尚央が連れて来たのは小さな駐車場で、
一つの軽自動車の前で止まると、
助手席のドアを開けて私に乗るように促した。
車で行くの?本当にどこへ行くんだろう。
なんだか少し怖かった。
でも尚央は私を優しく車に乗せて
自分も運転席に乗り込んだ。
乗った瞬間、煙草の匂いが鼻を擽った。
シートベルトを締めて、エンジンをかける。
すると静かな洋楽が流れてくる。
英語は得意だから歌詞がよく理解できる。
これは恋の歌だ。
男の人が全然振り向かない女の人を想う歌。
この人、意味分かって聴いているのかな。
よく雰囲気だけで洋楽を聴く人がいるけれど、
この人もその中の一人なのかな。
どっちにしろ、センスはいいと思う。
この曲、好きかも。
尚央は右手を窓際に置いて頬杖をつき、
左手でハンドルを操作する。
その様子をチラッと横目で眺めていた。
改めて思うけれど、大人なんだなぁ。
六歳の差を感じる。
この大人特有の余裕が妙に心地いい。
初対面なのに、なんでこんなに安心感があるんだろう。
次の曲に差し掛かった。
次の曲は男目線で書かれた失恋の歌だった。
尚央は鼻歌を歌い始めて、
歌詞が始まると小さな声で歌い出した。
普通に喋っている時よりも幾分か声が高い気がする。
ほどよいハスキーボイスで
洋楽をさらっと歌い出す尚央を見て、
私は思わず話しかけていた。
「歌詞の意味、分かってるんですか……分かってるの?」
敬語は禁止なんだった。
慌てて言い直すと尚央は一瞬私の方に視線を向けた。
けれどすぐに正面に向き直った。
「分かるよ。英語出来るし。
ちなみにドイツ語もフランス語も話せる」
「へぇ。そうなんだ」
「それもノートに書いておけよ」
素直に感心した。
ドイツ語とかなかなかかっこいい。
私は英語が話せればそれだけでかっこいいと思っていたけれど、
上には上がいた。
この人、ただ者じゃない。
「この曲、好きなの?」
「君のいない部屋から君の好きだった歌が聴こえる。
その歌をかき消すように君が好きだと叫んだ。
この歌詞が、何度聴いても好きなんだ。
この女々しさが、今の俺のようでさ」