Oni Jo-shi steals my heart.
 課長の言葉を思い出したせいで、目に涙が浮かび、手の甲で拭った。

 私の六歳上、三十一歳でイベント企画課の課長を務めるエリート上司。ほかの部署にはファンも多いけど、この課長のファンになるなんて、それは絶対彼の本性を知らないからだ。実際はこんなにも鬼なのに。みんな課長の整った顔に騙されている。

「……鬼課長は外。優しいイケメン新課長は内」

 ぽつりとつぶやいて、掴んだ豆を口に入れ、怒りを込めてバリボリかみ砕いた。

 完全にスッキリした、とは言いがたいけど、袋の中の豆がなくなってしまった以上、ひとり豆まきはこれで終わりだ。

 撒いた豆を拾い集めようとしゃがんだとき、パーティションの向こうから低い声が聞こえてくる。

「鬼課長とは俺のことか」

 ギクッとして、一瞬で額に嫌な汗が浮かぶ。

 まさかまさか課長が残っていたなんて!

 慌てて立ち上がると、パーティションを回って、当の鬼課長、もとい高築課長が姿を現した。ゆっくり歩いて私の目の前で足を止め、丸めた紙を持った右手を腰に当てる。二十センチ以上上から切れ長の目で見下ろされ、私はあわあわしながら口を開く。
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